初めて靴下のつま先をメリヤスはぎで閉じたとき、僕は手順を何度も見返しながら、恐る恐る針を動かしていました。表なのか裏なのか、外すのか残すのか、一手ごとに手が止まってしまって、仕上がったつま先もどこかぎこちない表情をしていた気がします。それでも「手前は表で外して裏で残す、奥は裏で外して表で残す」という順番さえ体に入ってしまえば、あとは同じ動作の繰り返しだと気づきました。今では、編み目がそのまま続いているように見える仕上がりを、迷わず再現できるようになっています。
とじ・はぎの基本|メリヤスはぎとすくいとじの使い分けでは、メリヤスはぎとすくいとじの違いをざっくり紹介しました。この記事では、そのうち「メリヤスはぎ」だけを一段階掘り下げて、休み目同士をつなぐ具体的な手順とコツ、そしてよくある失敗の直し方までまとめます。縦方向につなぐすくいとじについては、すくいとじのやり方|棒針・かぎ針の編み地をきれいにつなぐコツをご覧ください。
メリヤスはぎとは|目と目をつなぐ横方向の技法
メリヤスはぎは、英語では Kitchener stitch と呼ばれる技法で、グラフティング(grafting)とも呼ばれます。2本の針に残した「休み目」同士を、とじ針で1目ずつ縫いつなぎ、メリヤス編みの目がそのまま続いているように見せるのが特徴です。主に次のような場面で使われます。
- 靴下のつま先を閉じるとき
- セーターやベストの肩線をつなぐとき
- ミトンの先端を閉じるとき
日本の編み物では、休み目同士だけでなく、片方や両方を伏せ止めしてからメリヤスはぎする方法も基礎本で紹介されています。この記事では、最も基本になる休み目同士のやり方を扱います。
始める前の準備
メリヤスはぎをきれいに仕上げるには、始める前の準備が大切です。
- 糸端は長めに残す:つなぐ幅の3〜4倍が目安です(資料によって幅があるので、あくまで目安として考えてください)
- 前後の針の目数を揃える:休み目にする段階で、手前と奥の針の目数が同じになっているか確認しておきます
- 2本の針を平行に持つ:編み地の表側が外側に来るように(靴下なら表を外側に)、針先を同じ方向(右)に揃えて持ちます
- とじ針を用意する:先端が丸く、編み地の糸を割らずに通せるものを選びます
- 編み地と同じ糸を使う:色・太さが揃っていることで、縫い目が編み地に馴染んで目立ちにくくなります
- 明るい場所で作業する:休み目は細かく見えづらいので、薄暗いと針を入れる位置を見失いやすいです
メリヤスはぎの手順(休み目同士)
準備ができたら、実際につないでいきます。まず最初の2手で糸の通し方を整え、そのあとは4手を繰り返す流れになります。
- 手前の針の1目めに、裏目を編むようにとじ針を入れて糸を通す。目はそのまま針に残す
- 奥の針の1目めに、表目を編むようにとじ針を入れて糸を通す。目はそのまま針に残す(ここまでが準備です)
- 手前の針の1目めに、表目を編むように入れて糸を通し、その目を針から外す
- 手前の針の次の目に、裏目を編むように入れて糸を通す。目はそのまま針に残す
- 奥の針の1目めに、裏目を編むように入れて糸を通し、その目を針から外す
- 奥の針の次の目に、表目を編むように入れて糸を通す。目はそのまま針に残す
- 手順3〜6を、各針に1目ずつ残るまで繰り返す。数目ごとに糸を軽く引いて、周りの編み目と同じ大きさに整える(引きすぎないよう注意する)
- 最後は、手前の1目めに表目を編むように入れて外し、奥の1目めに裏目を編むように入れて外す
- 全体を見渡して、目の大きさが揃っていない部分があれば1目ずつ整える
- 糸端を編み地の裏側に数目通して始末する
覚え方として、「手前は表で外す・裏で残す/奥は裏で外す・表で残す」という言い方がよく使われます。英語圏では knit off, purl on / purl off, knit on と表現されることもあります。どちらの針から言い始めるかは資料によって表現が揺れますが、動作そのものは同じです。
靴下のつま先で行うとき
靴下のつま先でメリヤスはぎを行うときは、次の点を押さえておくとスムーズです。
- 減目を終えたつま先の目を、2本の針に半分ずつ分けます
- 糸は、最後の段で使っていた糸をそのまま使えます
- 編み地の表側が外側に来るようにします
- 前後の針の目数が同じになっているか確認します
- つないだあとに糸を引きすぎると、つま先が硬くなってしまいます。周りの目と同じくらいのテンションに整えましょう
つま先の練習には初心者向け靴下の編み方 海外動画3選もあわせてご覧ください。練習用に、実際に靴下を編みながら試せる靴下用の毛糸を使うのもおすすめです。
よくある失敗と対処
メリヤスはぎでつまずきやすいポイントと、その直し方をまとめました。
- 硬い線になる・突っ張る:糸を引きすぎています。1目ずつ糸を緩めて、周りの編み目と同じ伸び感になるよう調整します
- 隙間が空く:糸を引く力が足りていません。少し強めに引き直します
- 編み目がねじれる・模様が崩れる:繰り返しの4手の順序を間違えている可能性が高いです。とじ針を抜き、通してしまった糸を戻して、1目ずつ針に戻してからやり直します
- 目が針から落ちる:作業中は針先を上向きに保ちます。落ちてしまったら、その編み目をすぐに拾いましょう
- 裏メリヤス面(裏側)で行うと見た目が変わる:ここで紹介した手順は表側から行う場合のものです。裏面には裏面用の手順があり、Nimble Needlesのブログでは裏面用の解説も別に用意されています
メリヤスはぎ以外の「はぎ」との使い分け
メリヤスはぎ以外にも、目や段をつなぐ方法はいくつかあります。場面によって使い分けましょう。
- かぶせはぎ(three-needle bind-off):2枚の編み地を中表に重ね、3本目の針で前後の目を一緒に編みながら伏せていく方法です。作業が速く丈夫な反面、つなぎ目に畝が残るので、肩線のように多少の厚みが気にならない場所に向いています
- 目と段のはぎ:目と段をつなぐ方法で、袖付けなどで使われます。英語には決まった定訳がなく、grafting stitches to rows のように説明的に呼ばれることが多いです
- 引き抜きはぎ:かぎ針の引き抜き編みでつなぐ方法です。文脈によって指す技法が変わるため、ここでは「かぎ針で引き抜いてつなぐ方法」とだけ説明しておきます
動画で手の動きを確認する
メリヤスはぎは、休み目の外し方・残し方が言葉だけでは伝わりにくい工程です。海外の動画で実際の手の動きを確認しながら練習するのがおすすめなので、日本語の説明を添えて3つ紹介します。
1. VeryPink Knits|とじ針を使う標準的な手順を確認

アメリカ・テキサス州のStaci Perryさんが運営するブログとYouTubeチャンネルです。「Kitchener Stitch」という動画では、とじ針を使う標準的なメリヤスはぎの手順が実演されています。スローモーション版も別に用意されているので、手元の動きをよりじっくり確認したい人はあわせてチェックするのがおすすめです。
日本語ワンポイント:上記の「準備の2手」「繰り返しの4手」と照らし合わせながら、針の動きを確認すると分かりやすいです。
👉 VeryPink Knits「Kitchener Stitch」を見る
スローモーション版はこちら:VeryPink Knits「Slow Motion Kitchener Stitch」を見る
2. Nimble Needles|写真付きでステップバイステップに確認

オーストリア・ウィーン在住のNorman Schwarzeさんが運営する編み物ブログです。「How to do the Kitchener Stitch – Graft two knitted pieces together」というページには「Easy to follow instructions for beginners」と明記されていて、初心者向けに写真中心で手順が解説され、動画もあわせて見られます。裏メリヤス面用の別チュートリアルも用意されています。
日本語ワンポイント:写真が細かく分かれているので、手順3〜6の「繰り返しの4手」を1枚ずつ照らし合わせて確認するのに向いています。
👉 Nimble Needles「How to do the Kitchener Stitch」を見る
3. Winwick Mum|靴下講座の一部としてつま先のグラフトを確認

イギリスのChristine Perryさんが運営する靴下編み講座の一部です。「Sockalong」という靴下編みシリーズの第3週にあたる回で、つま先の減目からメリヤスはぎ(グラフト)までが写真つきで解説されています。
日本語ワンポイント:靴下を編む一連の流れの中で、メリヤスはぎがどのタイミングで出てくるのかを確認したい人に向いています。
👉 Winwick Mum「Sockalong – Week 3 – Foot, toe and grafting the toes」を見る
使う道具|とじ針とはさみ
メリヤスはぎにも毛糸とじ針が欠かせません。先端が丸く、編み地の糸を割らずに通せるものを選びましょう。道具全般は編み物超初心者が最初に揃えるべき道具5選でも紹介しています。
つないだあとの糸端の始末には、手芸用のはさみが活躍します。
まとめ
| 場面 | 針の準備 | コツ |
|---|---|---|
| 靴下のつま先 | 減目後の目を2本の針に半分ずつ分ける | 引きすぎず、周りの目と同じテンションに整える |
| 肩線 | 前後の目数を揃えて休み目にする | 編み地の表側が外に来るように針を平行に持つ |
| ミトンの先端 | 先端の目を2本の針に半分ずつ分ける | 数目ごとに軽く引いて形を整える |
メリヤスはぎは、最初は手順を目で追うだけで精一杯だと思いますが、「手前は表で外す・裏で残す、奥は裏で外す・表で残す」という順番が体に入れば、編み目がそのまま続いているように見える仕上がりを再現できます。肩線をつなぐ練習をしたい方は初心者向けセーター動画3選、ミトンの先端で練習したい方は指なし手袋・ミトン動画3選もあわせてご覧ください。焦らず、自分のペースで練習してみてください。
